レポート  ・愛犬ツンと西郷隆盛像   
 
− 愛犬ツンと西郷隆盛像 −
著者が住む隣町の薩摩川内(せんだい)市東郷町には、大宰府で亡くなったはずの菅原道真公が、実は難を逃れて筑前から船で水俣湾を経由して出水に上陸し、この地に到着して余世を送ったという、たいそうな伝承を持つ藤川天神という神社があります。
 
境内には、菅原道真公手植えの1株が繁殖したと言われる梅が約 150本あり、このうち50数本は龍が伏したように幹が地上を這っている、いわゆる臥龍梅といわれる梅で、国の天然記念物に指定されています。毎年、受験シーズンには、合格を祈願する受験生や家族などで賑わい、2月中旬から3月上旬には梅見客で賑わいます。
 
明治6年(1873年)、下野して鹿児島に帰った西郷隆盛は、鹿児島市武町の住居で過ごしながら、よく県内各地の野山に出かけて兎(うさぎ)狩りをしては温泉に入ったりして保養を楽しんだと言われます。
 
明治7年か同8年頃、藤川天神を参詣した西郷さんは境内で近所の犬と出会います。ツンと呼ばれるその犬は、ピンと立った耳と左尾が特徴の薩摩犬で、兎狩りが得意なメス犬でした。一目見て気に入った西郷さんは、前田善兵衛という飼主に犬を譲って欲しいと頼みます。
 
しかし、善兵衛は渋りこの申し出を断りました。あきらめきれない西郷さんは、土地の有力者であった三原隼人に交渉を頼みます。善兵衛はその情熱に折れ、ツンは西郷さんの飼い犬となりました。
 
西郷さんは大変に喜び、三原に自分の乗馬を与え、善兵衛には金20貫を与えたといわれます。ところが、ツンは、狩りの途中、猟犬の勘を働かして逃走を図り、はるばる藤川を慕って二度も逃げ帰ったといわれます。
 
この『ツン』の銅像が、平成2年(1980年)のNHK大河ドラマ『翔ぶが如く』の放映を機に、藤川天神に建立されました。制作を日本芸術院会員の中村晋也鹿児島大学教授(当時)に依頼し、同年2月に完成、参道脇に建立されました。
 
『上野の西郷さん』の銅像が連れている犬もこの愛犬のツンですが、銅像が制作された当時ツンはすでに死んでいたため、海軍中将・仁礼景範のオス犬をモデルにしてオス犬として作成されたそうです。そして、上野の西郷さんの銅像は浴衣姿です。
 
明治10年(1877年)1月29日、錦江湾(鹿児島湾)を挟んで鹿児島市の対岸にあたる大隅半島の根占(ねじめ)で木賃宿を定宿にして狩りに出ていた西郷さんは、鹿児島城下の私学校生が城下の弾薬庫を襲撃したという知らせを受けます。これが西南の役の火ぶたとなりました。西郷さんは、『ちょしもた!』(しまった!)と一瞬怖い顔で深いため息をつき、鹿児島に向かったと言われます。
 
西郷さんが定宿にしていたその宿所跡は、現在も南大隅町に残されています。狩りに出かけない日は、地元の子供たちと遊び、裸で昼寝をしたりしていたそうです。ですから、西郷さんが浴衣姿で愛犬をつれて散歩している姿は想像に難くありませんが、ところが、上野の銅像の公開の際に招かれた西郷夫人糸子は、『浴衣姿で散歩なんてしなかった』といった意味の薩摩弁を周囲の人に漏らしたそうです。
 
西南の役で朝敵となって城山に散った西郷さんでしたが、慕う者が多く、明治天皇は明治22年(1889年)に、朝敵の汚名を取り消す決定をします。これによって西郷さんの像が建てられる計画が持ち上がると、全国から多額の寄付金が寄せられました。
 
明治26年(1893年)に、像の制作を高村光雲に依頼することが決定(傍らの犬は後藤貞行作)。皇居に建てるという案が出されたり、『陸軍大将軍服着用の騎馬銅像』や『大将服着用の立像』が計画されましたが、政界の有力者らから猛烈な反対が起こり、最終的に現在の姿になったと言われます。
 
その背景には、西郷から武人としての牙を抜き、犬を連れて歩く人畜無害な人物というイメージを民衆に定着させようとする政治的意図が働いていたと見られます。
 
まだ西郷への反感を持つ政治家が多かった時代、明治政府の官位による正装をさせるわけにはいかなかった事情をくんだ大山巌は、『西郷の真面目は一切の名利を捨てて山に入って兎狩りをした飾りの無い本来の姿にこそある』として、愛犬をつれ、腰に藁(わら)の兎罠(わな)をはさんで兎狩りに出かける姿の像を発案したそうです。
 
以後、『上野の西郷さん』と呼ばれて 110年以上も国民に親しまれ、現在でも東京の象徴的光景の一つになっている西郷像です。もし、『陸軍大将軍服着用の騎馬銅像』あるいは『大将服着用の立像』だったら、上野のこの界隈のイメージも今とは微妙に違ったものになっていたに違いありません。
 
 ・上野の西郷隆盛像を見る
   → http://washimo-web.jp/Report/Phot-SaigouZou.htm
 
また、下記の旅行記が参考になります。
 ◆藤川天神 〜 南洲翁ゆかりの地(2) − 鹿児島県薩摩川内市
  
【参考にしたサイト】
・西郷隆盛像 − Wikipedia
西郷隆盛と愛犬ツン
 

  2012.03.21
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