レポート  ・映画『ローマの休日』   
『ローマの休日』

あの『ローマの休日』(1953年、製作国アメリカ)の製作から50周年を迎えた2003年の今年、「製作50周年記念デジタル・ニューマスター版」が、世界に先駆け、全国のユナイテッド・シネマなど、日本の劇場で公開されています。また、12月17日にはDVD版が発売されます。
  
『ローマの休日』は、アメリカン・フィルム・インスティテュートが2000年に発表した「アメリカが生んだ最も素晴らしいラブストーリーベスト100」の第4位に選ばれ、世紀を超えて世界中の人々に愛され続けている恋愛映画ですね。興味深いエピソードが沢山あります。
 

映画『ローマの休日』の誕生まで

『ローマの休日』の脚本を書いたのは、ダルトン・トランボです。彼は、当時ハリウッド・テンの一人としてハリウッドから締め出されていた身でした。そのため、偽名や他人の名前を使って脚本を書き続け、この脚本を発表したのです。
 
この作品に最初に興味を示しのが、映画製作者兼監督のフランク・キャプラでした。キャプラは、エリザベス・テイラーとケーリー・グラント主演で映画化を進めますが、彼が提示した高額な制作費にスタジオが難色を示し、キャプラに代わってウイリアム・ワイラーを監督に起用します。ワイラーも赤狩り(レッド・パージ)の政策に反対していた人物でした。トランボの思いをワイラー監督が引き継いで、「ローマの休日」が陽の目を見ることになったわけです。
 
ワイラーは、当時ハリウッドでは無名だったオードリー・ヘプバーンを主役に抜擢します。もし、キャプラによって、エリザベス・テイラーとケーリー・グラント主演で映画化が進んでいれば、オードリー・ヘプバーンの『ローマの休日』はなかったわけです。
 

監督ウイリアム・ワイラー

ウイリアム・ワイラー(1902〜1981)は、「ローマの休日」のほか、「必死の逃亡者」、「コレクター」、そして「ベン・ハー」などの名作を次々と世に送り出した名監督ですが、細かい場面でも妥協することなく、納得がゆくまで何回も撮り直す完全主義者で、「ナインティ・テイク・ワイラー」(90回撮りのワイラー)とあだ名されたほどでした。そのため俳優やスタッフとの間でよく摩擦を引き起こしました。
 
『ローマの休日』でも、ヘプバーンとペックがベスパ(スクータ)に乗ってローマ市街を走りまわる数分間のシーンの撮影に、実に6週間もかけたといいます。
 
また、スペイン広場のトリニタ・ディ・モンティ教会の階段でヘプバーンがアイスクリームを食べるシーンがあります。この2分くらいのシーンの撮影に、何と6日間かけたのだそうです。面白いのは、何日にも分けて撮影されたため、背後に見える教会の塔の時計の針が、カットが変わるたびにずれています。
 

シナリオのエピソード

映画のラストシーンがなかなか決まらず、ヘプバーンとペックがラストで結ばれるシナリオも考えられましたが、結局は、トランボのオリジナル脚本通り、ペックが誰もいなくなった寺院に一人佇(たたず)むシナリオに落ち着いたのだそうです。
 
当時は無名だったオードリー・ヘプバーンは、ハリウッドの有名監督を前に、あがってしまい、どうしても演技がぎこちないです。共演のグレゴリー・ペックが「真実の口」へ入れた手を袖の中に隠してヘプバーンを驚かす有名なシーンがありますね。このシーンはヘプバーンをリラックスさせるためにペックとワイラー監督が仕組んだアドリブだったそうです。
 

グレゴリー・ペック

『ローマの休日』(1953年)のあと1961年に公開された『ナバロンの要塞』が空前の大ヒットを記録します。190cm近い長身のためでしょうか、ペックは長年、大根役者のように言われ続けましたが、1962年の『アラバマ物語』では冤罪(えんざい)の黒人被告を救うのに奮闘する男やもめの弁護士フィンチ役を熱演し、「アメリカの良心」と評されます。
 
大根役者の汚名を返上するとともに、念願のアカデミー主演男優賞を獲得しました。2003年にアメリカ映画協会が発表した「最も偉大な映画のヒーロー」では、第1位に選ばれました。
 
実生活も弁護士フィンチそのもののような、品位にあふれた道徳的な生き方で人望が厚かったようです。「ローマの休日」公開から50年、オードリー・ヘプバーンの死去から10年の今年(2003年)、6月12日に死去しました。享年87歳でした。
 

【備考】
■ハリウッド・テン
赤狩り(レッド・パージ) の嵐が吹き荒れたアメリカで、1947年に行われたハリウッドの映画人に対する聴聞会に出頭して、言論の自由、表現の自由を盾に、実質的な証言を拒否して委員会に協力することを拒んだ10名の映画人のこと。
 
■赤狩り(レッド・パージ)
米ソの冷戦が激化していた40年から50年代に、非米活動委員会(HUAC)による極端な反共主義とこれに関連する一連の思想のこと。
 
■参考になるサイト
50周年記念デジタル・ニューマスター版" Webサイト
『ローマの休日』
 

  2003.11.05
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