レポート  ・村田新八 〜 西南戦争人物伝(1)   
− 村田新八 〜 西南戦争人物伝(1) −
官軍と薩軍の対決は、決して開明派と土着派の対決などという、単純な図式で割り切れるものではあり得なかった。西洋をよく知りながら西郷の軍に投じた者もいたのである(江藤淳著『南洲残影』より)。その筆頭にあげられるのが、村田新八でしょう。
 
鹿児島城下の薬師町の高橋家に三男として生まれ、のちに村田家の養子になります。幼少の頃から西郷隆盛に指導を受け、死の瞬間まで西郷に付き添い、深く尊敬し続けた人でした。
 
文久2年(1862年)、西郷が島津久光の命に背き上京したことを咎(とが)められ、徳之島から沖永良部島に流されると、村田も同罪により喜界島に流されます。しかし、二年後の元治元年、情勢の変化から西郷は赦免されると、途中、喜界島へ寄ってまだ赦免されていなかったを村田を鹿児島に連れ帰ります。
 
以後、西郷の懐刀として禁門の変、戊辰戦争と国事に奔走。明治4年(1868年)には、西郷の推挙により、年少だった睦仁天皇(明治天皇)を補佐する宮内大丞(たいじょう)に就き、同年、岩倉使節団の一員として、洋行の旅にでます。
 
岩倉使節団の副使として洋行をともにした大久保利通は、『新八が東京におれば、わが党の重きをなすに違いない』と、村田の人物見識を高く評価し、帰朝の暁には政府に留めて共に事にあたろうと期待していたといわれます(『南洲残影』より)。
 
同行の団員たちが、洋服を新調したり帽子を買い込んだりして紳士風を装うのに汲々(きゅうきゅう)としているなかで一人、日本で仕立てた古洋服を着て平然としていたそうです。
 
しかし、薩摩武士にしては珍しく美術や音楽を好んだ村田は、滞留先のパリではひまがあるとオペラ座に通い、米国ではアコーディオンを買い求めて自由に弾きこなし、その姿は異彩を放っていたそうです。アコーディオンは帰国後も愛用し、西南戦争で敗走する間もたえず持ち歩いたといわれます。
 
欧米視察中、村田は大久保利通の新国家建設への思いをたっぷりと聞かされ、大久保に魅力を感じ始めますが、明治7年(1874年)に視察から帰国し、西郷隆盛が下野して帰郷したのを聞くと、『大久保さんのことは良くわかっている。あとは、西郷さんの意見を聞いた上で決める』といって、官を辞して鹿児島へ帰ってしまいます。
 
ほどなく、鹿児島から『余は西郷と離るべからざる関係あるを以て、上京すること能はず』という手紙を東京に送ります。大久保の意見についてはもちろんのこと、何もかもわきまえたうえで、西郷への情をとったということでしょう。
 
西郷への情だけでなく、『吾輩一人は、先生(西郷)を以て深智大略の英雄と信じて疑いもはん。西郷先生を帝国宰相となし、その抱負を実行させることにこそ、われらの責任が掛かっているもんと心得もす』(『南洲残影』より)といっているように、西郷を説得し、近い将来日本でも行われるであろう議会政治で西郷を擁立したいという願いがあったのではないでしょうか。
 
鹿児島に帰郷後、私学校の設立に貢献し、砲兵隊長を務めます。明治10年(1877年)、私学校内で行なわれた軍議で、出兵に関して村田は黙然としていて積極的に発言しませんでしたが、同年2月13日に、大隊の編制がおこなわれると、村田は薩軍二番大隊指揮長となります。欧米視察では古洋服で通した村田でしたが、西南戦争ではシルクハットにフロックコート(モーニングコートの原型)姿の格好で戦ったそうです。
 
村田には三男一女がありましたが、長男の岩熊と次男の二蔵はともに西南戦争に従軍して戦死。『♪ 右手(めて)に血刀(ちがたな)〜 左手(ゆんで)に手綱(たづな)〜 馬上ゆたかな 美少年』と熊本民謡・田原坂にうたわれた美少年は、同年3月の田原坂の戦いで戦死した長男・岩熊がそのモデルだといわれます。
 
西南戦争終末、鹿児島の城山で最後の官軍総攻撃を迎えた村田は、それまで手放さなかったアコーディオンを焼いたといわれます。そして、同年9月24日、城山は陥落、西郷の首が落ちるのを見届け、村田新八は自刃します。享年42歳でした。桜島を望む南洲墓地で、西郷の傍らに眠り続けています。
 
西南戦争終結後、勝海舟は、『彼は大久保利通に亜(つ)ぐの傑物なり。惜哉(おしいかな)、雄志を齎(もたら)して非命に斃(たお)れたることを』と評しました。
 
【参考にした図書とサイト】
・江藤淳著『南洲残影』(文藝春秋社、1998年3月初版)
幕末人物セレクション〜村田新八
・村田新八 − フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 
【備考】田原坂については、下記のページが参考になります。
旅行記 田原坂を訪ねて− 熊本県植木町
 

2007.10.03 
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