レポート  ・ヒトはなぜ無毛になったのか?   
 
− ヒトはなぜ無毛になったのか? −
5月も中旬になり清々しい薫風の季節ですが、日中はちょっと動くと汗ばみます。人間は全身で汗をかきます。むしむしする中でじわじわと、灼熱の太陽の下でだらだらと汗をかくのはたまりませんが、人間の発汗作用は、ヒト(人類)の進化の証(あかし)に他なりません。
 
人間においては、汗は主として体温調節の手段です。すなわち、皮膚表面からの汗の蒸発には、潜熱(液体が気化するときに吸収する熱)による冷却効果があります。この発汗能力の高さが、ヒトがマラソンのように長距離を走れる理由であり、アフリカの狩猟民族はこれを利用して獲物の大型獣が体温上昇で走れなくなるまで、追いかけて狩りをするそうです。先史時代のヒトも同様の狩りを行っていたと推測されています。(Wikipedia を参考)
 
6500万年前、地球に巨大隕石が衝突します。これによって多くの動物や植物が死滅し、恐竜が絶滅します。恐竜時代末期のこの時期に、熱帯密林の下生えや木々の間をちょろちょろと動き回る動物がいました。霊長類の始祖で、長く突き出た鼻を持つ小型のリスに似た動物でした。
 
恐竜時代の終焉によって新たに自由を得た霊長類は、やがて3000万年前頃になると、猿(ひひやマカクに代表される旧世界猿)と類人猿に分かれていきます。1000万年前頃までは、類人猿が森林を支配しており、猿の方は相対的に目立たない存在でした。
 
ところが、1000万年前頃、世界がしだいに冷えて乾燥していくに従って森林が縮小していくと、より質の劣る植物をとることのできた猿が類人猿との競争に打ち勝ち優位に立つようになります。問題の一つは、類人猿が猿とは異なり、熟していない果物のタンニン(渋味成分)を解毒する能力を持っていなかったことらしいのです。
 
類人猿は現在の我々と同様、熟していない果実を食べることができませんでした。一方、進化の歴史のどこかでタンニンを分解してくれる酵素とその他のメカニズムを獲得した猿は、熟していない果実を食べられるおかげで、類人猿より優位に立ちます。
 
森林の中のかなりの果実が熟す以前に猿によって食べられてしまうため、類人猿が入手できる量が激減していき、類人猿は徐々に数を減らしていきました。そして、生き残った少数種の類人猿は、森林の地面やはずれなどに追いやられます。そんな中で、類人猿の一つの系統(人類の祖先)が、まだ猿に採りつくされていない食物の木々を求めて、森林から出て二足歩行で先へ歩き出したのです。
 
直立歩行すると、四つ足全部で歩行するときに比べて、太陽の放射熱を受ける度合いが最大三分の一ほど少なくなるそうです。また、地面からおよそ1メートル以上の高さになると、地表の上で起こる風の速度が増すため、直立歩行には大きな冷却効果が得られるという利点がありました。
 
直立歩行によって直射日光にさらされる体表が少なくなると、断熱材として皮膚を涼しく保つのに役立っていた毛皮が必要でなくなってきます。加えて、毛がないことは、素肌から汗をかいて身体を冷却するのに都合が良かったのです。こういうわけで、我々は毛皮を失い、日中にいまだ太陽にさらされる頭と首筋だけに毛皮を残したのでした。
 
毛がなく二足歩行をして汗をかく先行人類は、毛皮を持つ四足のものに比べて、単位量の水につき移動できる距離が二倍になったことが示唆されています。この節約は、開けたサバンナに出て行った半遊動の先行人類にとって、途方もなく有利なことだったに違いありません。(以上、『ことばの起源』(ロビン・ダンバー著、松浦俊輔+服部清美訳、1998年発行、青土社)の関連個所を要約)
 
〔用語〕
【霊長類】=れいちょうるい。キツネザル類、オナガザル類、類人猿、ヒトなどによって構成されるサル目の哺乳類の総称。
 
【類人猿】=るいじんえん。ヒトに似た形態を持つ霊長類を指す通称名。ヒトの類縁であり、複雑な脳によって高度な知能を有し、体格が大きく、尾がないことが特徴である。集団生活を営む。チンパンジー、オラウータン、テナガザル、ゴリラなどを含む。おおよそ3000万年前に最古の類人猿が出現。 500万年前、人類の祖先は、類人猿と分岐して進化をはじめた。
  

  2012.05.16
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