コラム  ・俳句の風景 〜 町工場   
 
− 俳句の風景 〜 町工場 −
工作機械を使って鉄を削る町工場。昭和の終わり頃から平成10年頃にかけて、削れば削るだけ儲かるという時代がありました。しかし、ここ数年、生産拠点の海外への移転が進み、加えて最近の円高、半導体関連の工場閉鎖などの影響で仕事の絶対量が減ってきています。
  
仕事の取り合い。仕事が取れても、採算がとれるかどうかのぎりぎりの低価格、そして短納期に何とか対応するしかありません。いま、町工場はそういう厳しい状況に直面しています。
  
夜食とは、夕食のあとにとる軽食のこと。四季を通じて年中とるものでしょうが、秋の夜長は夜食をとる機会も増えようというので、秋の季語になっているのはおもしろいです。農家で遅くまで仕事をしたり、会社の残業で夜が更けた場合などに夜食をとる、と歳時記(角川書店、合本俳句歳時記)にあります。
  
    夜食くう旋盤の屑散れしまゝ
    秋灯し納期遅れの鉄削る
  
    ハンドルを持つ手に伝ふ夜寒かな
  
夜寒とは、読んで字のごとく、夜に感じる寒さのことです。日が暮れると、ひたひたと寒さが忍び寄ってくる。本や机に触れると、うっすらとした寒さを感じる。夜なべをしていても手先が冷えてくるほどである(同上)。すなわち、夜寒とは、冬の夜の寒さのことではなく、晩秋の頃の夜分の寒さを指します。
  
低価格で短納期だからといって、製品の品質をおろそかにして良いというわけではありません。精密部品になると、ミクロン(千分の1ミリメートル)あるいはサブミクロン(一万分の1ミリメートル)単位の寸法精度で仕上げます。
  
冬の月(寒月)には、肌を刺す寒さとあいまってぞっとするような美しさがある。本当に美しいのは秋より冬の月であろうか(同上)。超精密に仕上げられた鉄の表面が冬の月に照らされています。
  
    寒月や水の滴る鉄の肌
  
コスト安、コスト安と、経済効率ばかりを追求し回るのが、わが国のものづくりではないはずです。料理にしても、農産物にしても、アニメ・音楽・映画などのポップカルチャーにしてもしかり、丁寧なものづくりこそがわが国の信条。町工場に働く人たちのものづくりの根性・姿勢が見直されるときがきっとくるはずです。
  
    小春日やるるるると鉄削られる
 

  2012.11.14
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