集落に隣接した山はかつては、人が入って枯枝を拾ったり、木を伐採して薪を得たり、あるいは畑などに行き来する通り道だったりして、人間の影響を受けた生態系が存在する、いわゆる里山(さとやま)だった。その里山が崩壊して久しい。
より標高の高いウチヤマ、オクヤマ、タケといった、野生動物の生息領域と人間が住む集落(里)との緩衝地としての役割を果たしていた里山が崩壊した結果、野生動物が農地や集落に出没するようになり、獣類被害対策が全国共通の課題になっている。
里山は子供たちの遊び場でもあった。里山を通って畑に行っては土手に植わっている柿やビワの実をちぎり、秋になると山に入ってアケビを見つけて自給自足のおやつにした。木の上に櫓(やぐら)をつくって陣取りごっこをし、ヒヨドリやヤマバトを狙って、灌木仕掛けの罠(わな)をかけた。
父や母に連れられて、さつまいも掘りやスイカちぎりに行くとき通ったのも里山をぬう小道だった。子供の頃の里山のある生活は感受性の育(はぐく)みの源泉に他ならなかったと、この歳になって思われてくる。対して、今の子供たちは、山に囲まれて生まれ育っても、山に入ることがないから山を知らない。
せっかく山があるのに、もったいないとつくづく思うのである。そこへ、嬉しいことが起きた。近くの保育園に隣接してわが家の雑木林がある。その保育園の庭に隣接した一角を子供たちの遊び場にしたいので貸して欲しいと園長さんが言って来られたのである。
大歓迎である。二つ返事で承知した。持参された菓子箱は喜んで頂いたが、貸し賃などを頂く気は毛頭ない。この山の遊び場は、『どんぐり山』と名付けられたそうである。そのどんぐり山に入ってみた。園児が遊ぶのに危なくない、かつての里山の雰囲気そのものが残されていたのは幸いだった。
ロープを張って、遊ぶ区域が決められている。そして、植物園よろしく、つばき、もちのき、くちなし、かみさかき、かくれみのなどと、木に名札が付けてある。夏季はマムシが出る危険性を配慮して、園児たちがどんぐり山に入って遊ぶのは秋以降のことだという。どんぐり山が子供たちに少しでも里山の育みを与えてくれたら嬉しい。
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(1)どんぐり山の入口 |
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(2)入口側から内部を見る(ロープを張って区域を決めてある) |
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(3)奥の方から入口の方を見る |
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(4)入口から保育園を見る |
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