レポート

・柳原白蓮と串木野

− 柳原白蓮と串木野 −

大正から昭和時代にかけての歌人で、大正三美人の一人といわれた柳原白蓮（やなぎわらびゃくれん）の歌碑（昭和59年12月建立）が、鹿児島県いちき串木野市の長崎鼻公園にあります。1885年（明治18年）に生まれ、1967年（昭和42年）に81歳で死去。本名、宮崎�Y子（みやざきあきこ）。 　 　　　　右も海 左も海の 色蒼く 　　　　　　　　　　沖の小島に 想ひは ふかし　白蓮 　 昭和32年（1957年）春、中国視察旅行の帰途、かねてより親交のあった元宮中女官で串木野市婦人会々長奥田のぶ女史並びに市婦人会の招請による講演会後、長崎鼻の絶景に魅せられ、この歌を残した、と歌碑の裏に刻まれています。では、なぜ柳原白蓮と串木野なのでしょうか。 　 柳原白蓮といえば、平成26年度のＮＨＫ連続テレビ小説『花子とアン』でヒロインの友人の葉山蓮子（仲間由紀恵）のモデルだったということで話題になったそうですが、著者が柳原白蓮という人を知るに至ったのは、宮崎八郎（1851〜1877年）のことを調べたのがきっかけでした。 　 　宮崎龍介 　 宮崎八郎は、ルソーの『社会契約論』の部分訳である中江兆民の『民約論』に影響を受け、自由民権運動のリーダとして明治８年（1875年）、熊本県植木町に植木学校を設立します。西南戦争が勃発すると、民権家同士で熊本協同隊を結成し、薩軍に合流。桐野利秋のもとで政府軍を相手に戦うも熊本県八代市にて志半ばで戦死。享年26。 　 この宮崎八郎を長男とする、熊本県荒尾のいわゆる『宮崎四兄弟』の末弟が、日本で孫文たちを支援して中国の辛亥革命を支えた宮崎滔天（みやざきとうてん）でした。その長男が柳原白蓮との駆け落ち、いわゆる『白蓮事件』で知られる宮崎龍介です。 　 父の滔天が革命運動に打ち込んで家庭を顧みなかっため、家は貧乏で、お嬢様育ちだった母は慣れない石灰販売などをして子供たちを育てたといわれます。第一高等学校に入学しますが結核を発症して休学。その後、小康を保って東京帝国大学に合格。 　 1920年（大正９年）、帝国大学学生のまま吉野作造が主宰する黎明会の機関誌であった『解放』の主筆となった龍介は、たまたま九州出身であったことから、同誌に戯曲を発表した柳原白蓮との打ち合わせのため、別府の伊藤家別荘を訪れます。 　 　柳原白蓮 　 父は柳原前光伯爵。母は前光の妾の一人で、柳橋の芸妓となっていた没落士族の娘。15歳で嫁がされた子爵家の北小路資武との最初の結婚に破れ、九州筑豊の炭鉱王・伊藤伝右衛門と再婚します。 　 大正天皇の従妹に当たる、華族で、美貌で鳴る26歳の�Y子（あきこ）と、炭鉱労働者からの叩き上げで、学問はなく、妻を亡くした直後だった50歳の大金持ち。あまりにも不釣り合いな地方炭鉱主が伯爵家から妻を娶（めと）る。前代未聞のことで、『華族の令嬢が売物に』と話題になりました。 　 伝右衛門は�Y子を大切にしましたが、家の中にはすべてを仕切る妾（めかけ）がいました。またも孤独を感じる�Y子は、雅号を『白蓮』と名乗り、ひたすら短歌の世界に没頭します。 　 1919年（大正８年）12月、戯曲『指鬘外道』（しまんげどう）を雑誌『解放』に発表すると、これが評判となって本にすることになります。打ち合わせのため別府の別荘を訪れた７歳年下の宮崎龍介と初対面を果たします。 　 　出奔と再々婚 　 両親ともに筋金入りの社会運動家の血を引き、時代の先端を走り、社会変革の夢を語る龍介は、�Y子がこれまで出会ったことのない新鮮な思想の持ち主でした。二人は、その後打ち合わせの中で恋仲となります。そのうち、�Y子から龍介に『今の境遇に耐えられない、何度自殺しようと思ったか知れない。今の状態から一刻も早く私を救い出して欲しい。』といった趣旨の手紙が届くようになります。 　 そして、1921年（大正10年）８月、京都での逢瀬で�Y子は龍介の子を妊（みごも）ると、ついに夫への離婚宣言を新聞に発表し、出奔してしまいます。姦通罪が存在していた当時としては、命懸けの恋でした。�Y子36歳、龍介29歳。 　 紆余曲折を経て、1923年（大正12年）９月の関東大震災をきっかけに、駆け落ち騒動の最中に生まれた長男・香織とともに宮崎家の人となった�Y子は、それまで経験したことのない経済的困窮に直面します。弁護士となっていた龍介は結核が再発して病床に伏し、宮崎家には父・滔天（とうてん）が残した莫大な借金がありました。 　 �Y子は小説を執筆し、歌集も出版、色紙や講演の依頼も引き受け、龍介が動けなかった３年間は�Y子の筆一本で家計を支えました。1937年（昭和12年）７月、盧溝橋事件で緊迫する中国との和平工作の特使として、龍介が近衛文麿首相の依頼で上海へ派遣されますが失敗、神戸で拘束されて東京へ送還されます。 　 　戦争と晩年 　 �Y子ら一家は家宅捜索を避け、蓼科の別荘に避難。1944年（昭和19年）12月１日、早稲田大学政経学部在学中の長男、香織が学徒出陣し、翌年の1945年（昭和20年）８月11日、所属していた陸軍の鹿児島県串木野市の基地が爆撃を受けて、戦死しました。享年23。終戦のわずか４日前のことでした。 　 香織戦死の知らせを信じず、公報の知らせを捨てた�Y子は涙も出ず、ただただ呆然としたまま、夜になって一人、庭で慟哭（どうこく）したといわれます。1946年（昭和21年）５月にＮＨＫラジオで子供の死の悲しみと平和を訴える気持ちを語ったことをきっかけに、『悲母の会』を結成。熱心な平和運動家として支部設立のため全国を行脚しました。年の半分、家を空けていた年もあったといわれます。 　 柳原白蓮歌碑（いちき串木野市・長崎鼻公園） 柳原白蓮歌碑（いちき串木野市・長崎鼻公園）  　 　 【参考サイト】 （１）柳原白蓮 - Wikipedia （２）宮崎滔天 - Wikipedia （３）宮崎龍介 - Wikipedia

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