書籍紹介 | ・最近読んだ本/お薦(すす)めの一冊(8) |
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『青嵐の坂』 葉室 麟・著 KADOKAWA(角川文庫)/2021年(令和3年)8月初版発行/定価\680+税 城下の大半を焼いた「お狐火事」と呼ばれる火災と凶作が重なり、扇野藩の財政は破綻寸前の危機に瀕していた。藩主の千賀谷家定は困難を脱するため、郡代の檜弥八郎を中老に抜擢し藩政改革にあたらせる。弥八郎は厳しく年貢を取り立て領民を圧迫する「黒縄地獄」と呼ばれる改革を進めるが農民の離村を招く。果てに弥八郎は呉服商から賄賂を受け取った疑いで切腹に追い込まれ、自分の後継者は「あの者であろうか」との言葉を残して自刃して果てる。弥八郎とは不仲だった息子の慶之助は、江戸で暮らす藩主の世・仲家のお気に入りでもあったことから咎はなかった。十三歳の娘・那美は、藩命で親戚の中でも最も貧しい遠縁の矢吹主馬(やぶきしゅめ)に預けられる。彼には生前の弥八郎から託された、ある使命があった。武家は利では動かぬ、義で動くものだ。悪に屈せず、信念を貫いた武士を描く、清廉極まる時代小説。(2022.02.09) |
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『玄鳥さりて』 葉室 麟・著 新潮社(新潮文庫)/2021年(令和3年)10月第1刷発行/定価\630+税 九州・蓮乗寺藩の樋口六郎兵衛は20歳を越えた三十石の軽格藩士。城下の林崎夢想流の道場で精妙随一と謳われた、道場一の腕前だったが、どういう訳か、8歳年下のそれも百五十石の身分違いの三浦圭吾を稽古相手に選ぶ。「わが望みは、生涯にわたって大切な友を守ることです」と、圭吾に言い切る六郎兵衛。圭吾はやがて、城下町の富商、津島屋の一人娘、美津を娶り、津島屋の後ろ盾も得て、家老に認められ出世を遂げていく。その陰には、遠島になってまで圭吾を守ろうとした六郎兵衛の献身と犠牲があった。十年を経て罪を許され帰藩した樋口六郎兵衛は、静かな暮らしを望むのだが、親政を目論む藩主の企てにより、三浦圭吾と剣を交えざるを得なくなる。「飛び去っていった燕(つばめ)は二度と戻らないのか」。玄鳥とは燕のこと。2017年に病気により66歳で急逝した著者の、「いかに生きるかを深く考えさせずにおかない」遺作。(2022.02.01) |
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『男振』 池波正太郎・著 新潮社(新潮文庫)/2009年(平成21年)7月第77刷発行/定価\710+税 禄高百五十石で近習頭をつとめる父と温和な母の薫陶によって育成された堀源太郎の貴稟(きひん)は、家中の子弟の模範というべきものであった。その眉目秀麗にして秀才の誉れ高かった源太郎が、まとまって頭髪がずるっと抜け落ちる奇病に見舞われる。それを主君の嗣子・千代之助に侮蔑された17歳の源太郎は、乱暴をはたらき監禁される。別人の小太郎を名のって生きることを許されるが、実は主君の血筋をひいていたことから、お家騒動にまきこまれることになる。しかし、源太郎は、宿命的なコンプレックスを強力なエネルギーに変えて、市井の人として生きる道を拓いていく。人それぞれが持っているコンプレックスをどう解決するか。問題はそこにあり、その対処のしかたによって人間の真価がきまる。源太郎を笑い者にした者たちが決して幸せとはいえない末路をたどる一方で、源太郎に温かい思いやりを示した人たちは幸福な人生を全うする。清々しく爽やかな男の生涯を描いた池波作品。(2022.02.01) |
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『半席』 青山 文平・著 新潮社(新潮文庫)/2018年(平成30年)10月第1刷発行/定価\590+税 父が一代御目見(一代限りの旗本)だったため、いわゆる『半席』にとどまっている片岡家。父子二代かけて永々御目見以上の家にすべく、一目散に仕事に励もうとする若き徒目付・片岡直人。だが、上役の徒目付組頭・内藤雅之から、表の御用とは別枠の頼まれ御用が振られてくる。罪人も罪を認めて一件落着した事件の、なぜその事件が起きなければならなかったのか『真の動機』を解き明かす御用である。職務に精勤してきた老侍が、なぜ刃傷沙汰を起こしたのか。歴とした家筋の侍が堪えきれなかった思いとは。人生を支えていた名前とは、意外な真相が浮上するとき、人知れずもがきながら生きる男たちの姿が照らし出されてくる。永々御目見以上の家への出世を目指すための勘定への役替えを捨て、直人は雅之の下でこのまま徒目付を続ける道を選ぶ。『半席』、『真桑瓜』、『六代目中村庄蔵』、『蓼を喰う』、『見抜く者』、『役替え』の6編。珠玉の武家小説。お薦めです。(2021.05.26) |
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『川あかり』 葉室 麟・著 双葉社(双葉文庫)/2014年(平成28年)2月第1刷発行/定価\695+税 藩で一番の臆病者と言われる男が、刺客となった! 武士として生きることの覚悟と矜持が胸を打つ、涙と笑いの傑作時代小説。川止めで途方に暮れている若侍、伊東七十郎。藩で一番の臆病者と言われる彼が命じられたのは、派閥争いの渦中にある家老の暗殺。家老が江戸から国に入る前を討つ。相手はすでに対岸まで来ているはずだ。木賃宿に逗留し川明けを待つ間、相部屋となったのは一癖も二癖もある連中ばかりで油断がならない。さらには降って湧いたような災難までつづき、気弱な七十郎の心は千々に乱れる。そして、その時がやってきた・・・。何度泣き笑いしたことか。泣くにつけて、笑うにつけて、胸が激しく締め付けられる。古語の「かなし」は、漢字で「悲し」とも「愛し」とも書く。葉室麟の「川あかり」は、まさに「かなし」という心情語がぴったりの、心に強く迫る小説である。それでいて、愉しく読める。読後感は、タイトルそのままに明るい。島内景二「解説」より。以上、本のカバーおよび帯の解説文より。(2019.01.23) |
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『白樫の樹の下で』 青山 文平・著 文藝春秋(文春文庫)/2013年(平成27年)12月第1刷発行/定価\560+税 賄賂まみれだった田沼意次の時代から、清廉潔白な松平定信の時代に移り始めた頃の江戸。幕府が開かれてから百八十年余りたった天明の時代に、役を持たない貧乏御家人の村山登は、同じく最下級の御家人で道場仲間の青木昇平、仁志兵輔と希望のない鬱屈した日々を過ごしていた。泰平の世が続く時代、竹刀剣法道場が花盛りの中で彼らはいまだに木刀を使う古風な道場に通っていたが、ある日、登は江戸城内で田沼意知(老中・田沼意次の嫡男で江戸幕府の若年寄)を切った刀だという一振りの名刀を手にしたことから物語が動き出す。いまだに人を斬ったことがない貧乏御家人が刀を抜くとき、なにかが起こる・・・。なにゆえ異常な殺人剣の使い手となってしまったのか。最下級御家人の現状から這い上がろうともがく若者たち、そして幼馴染・佳絵との恋。青春物語を散りばめながら、大鱠(なます)と異名を付けられた残虐な辻斬りの犯人捜しを軸に物語が展開する。傑作時代ミステリー。第18回(2011年)松本清張賞受賞作品(2019.01.20) |
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『潮鳴り』 葉室 麟・著 祥伝社(祥伝社文庫)/2016年(平成28年)5月初版第1刷発行/定価\700+税 生きることが、それがしの覚悟でござる―。俊英と謳(うた)われた豊後・羽根(うね)藩の伊吹櫂蔵(かいぞう)は、狷介さ(頑固で自分の信じるところを固く守り、他人に心を開こうとしない性格)ゆえに役目をしくじりお役御免。継母との確執もあって、今や漁師小屋に暮らす、〈襤褸蔵〉(ぼろぞう)と呼ばれる無頼暮らし。ある日、家督を譲った弟が切腹したという知らせが届く。遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知る。前日、何事かを伝えにきた弟を無下に追い返していた櫂蔵は、死の際まで己を苛(さいな)む。直後、なぜか藩から弟と同じ新田開発奉行並の役に出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がる決意を固める・・・。藩の帳簿を調べた結果、弟が藩財政立て直しのために天領日田の掛屋から借りた 5000両もの大金が藩に流用され切腹するに至ったという事態が見えてくる。『落ちた花は二度と咲かぬと誰もが申します』『見せて下さい、落ちた花がもう一度咲くところを』 落ちた花を再び咲かすことはできるのか? (2017.12.06) |
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『柚子の花咲く』 葉室 麟・著 朝日新聞出版(朝日文庫)/2013年(平成25年)10月第1刷発行/定価\660+税 瀬戸内の日坂藩。隣藩との干拓地を巡る境界争いに絡んで牢人・梶与五郎が殺されたところから物語は始まる。与五郎は武士、町人、農民が一緒に勉強する、郷学と言われる村塾の教師だった。身分のへだてなく愛情を注ぐ梶は、子どもたちに相撲を取らせ、川に出ては遊ばせるが、藩校を受験する子供たちには朝から夜まで徹底的に学問を教えた。『桃栗三年、柿八年、柚子は九年で花が咲く』が口癖の愛情あふれる、子供たちに人気の教師だった。ところが、死んだ途端になぜか梶の悪評が立つ。少年時代、与五郎から薫陶を受けた日坂藩の若き藩士・筒井恭平はそれが許せない。恭平は、師が殺された真相を探るべく隣藩へ決死の潜入を試みる―。与五郎の死後、子供たちは何かを守り続けるかのように村塾に籠りつづけるが、その理由がラストシーンで明らかになる。命がけで人を愛するとは、人生を切り拓く教育とは何かを問う、直木賞作家の感動の長篇時代小説。(2017.12.06) |
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『つまをめとらば』 青山 文平・著 文藝春秋/2015年(平成27年)7月第1刷発行/定価\1500+税 太平の世に行き場を失い、人生に惑う武家の男たち。身ひとつで生きる女ならば、答えを知っていようか―。女が映し出す男の無様、そして、真価―。『ひともうらやむ』『つゆかせぎ』『乳付』『ひと夏』『逢対』『つまをめとらば』、男の心に巣食う弱さを包み込む、滋味あふれる物語、六篇を収録。『ひとをうらやむ』は、分家筋の主人公の武士が、誰もが羨む女性と結婚した、藩きっての誉れ高い本家筋の友人から、夫婦関係についての深刻な悩みを打ち明けられる・・・。『乳付』は、身分違いの家へ嫁に行き、やっとの思いで男児を産んでほっとしたのもつかのま、そのまま寝込んで気づいくと、息子にはすでに親戚の女性が乳をやっているという・・・。『ひと夏』は、22歳まで当主である兄の世話になってきた主人公へ新しくお役を与えるというお達しがくるが、それはだれもが2年と続かないやっかいな仕事を押し付けるためだった・・・。など、男と女の生きる姿を描き出す。『かけおちる』、『鬼はもとより』の新感覚の時代小説作家の直木三十五賞受賞作品。(2017.12.06) |
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『かけおちる』 青山 文平・著 文藝春秋(文春文庫)/2015年(平成27年)3月初版/定価\610+税 『寛政二年、四万石の小藩・柳原藩では、窮乏する藩財政を立て直すため、鮭の産卵場所を確保して増産を図り、新たな財源とするための「種川」と呼ばれる施策が本格的に始まろうとしていた。事業を先導してきたのは、郡奉行から藩執政に抜擢された阿部重秀だが、それを最後の仕事として、彼は藩政から身を退く決意を固めていた。重秀には、“人の目を集めてはならぬ事情”があったのだった。』 ある地方藩の執政として、疲弊した藩財政の建て直しのため、秘策を練る阿倍重秀。順調に出世していたが、二十二年前、男と駆け落ちした妻を切り捨てた過去があった。そして、今度は娘が同じ過ちを犯した。妻と娘はなぜ逃げたのか? 重秀は、妻と娘の行動に深く傷つくが、一方で妻がなぜ“駆け落ち”したのか、隠されていた真の理由が徐々に明らかになる。経済関係の出版社に18年勤務経験を有する著者らしく、 鮭の孵化事業、本草学、文庫、養蚕など、興産の話も面白い。いま最も次作を期待される新感覚の時代小説作家・直木三十五賞候補作家、二冊目の文庫。(2017.12.06) |
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『散り椿』 葉室 麟・著 KADOKAWA(角川文庫)/2014年(平成26年)12月初版/定価\680+税 最愛の人を失ったとき、人は何ができるのか。たとえこの世を去ろうとも、ひとの想いを胸に、誠実に生きようと葛藤する人々を描いた感動長編! 18年前に扇野藩の上司の不正を訴えたが認められずに藩を追われ、各地を転々としたあげくに京都の地蔵院の庫裡に住むようになった瓜生新兵衛。苦労をかけ続けた愛する妻が亡くなるところから物語は始まる。病を得た妻の篠は、『もう一度、故郷の散り椿が見てみたい』『あなたにお願いしたいことがあります』『わたしが身罷りましたら、あなたに戻っていただきたいのでございます』と新兵衛に語り、ひっそりと息を引き取っていく。帰藩した新兵衛が目の当たりにしたのは、藩主代替わりに伴う側用人と家老の対立と藩内に隠された秘密だった。新兵衛は、かつての親友で恋敵でもあった榊原采女と対峙しながら、澱のように淀んだ藩内の秘密を白日のもとに曝そうとしていく。そして、妻の、苦しく切なくも愛に溢れた本当の想いを知ることになる・・・。主演・岡田准一、共演・西島秀俊ほかで、2018年映画化。お薦めの一冊。(2017.12.01) |
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『鬼はもとより』 青山 文平・著 徳間書店(徳間文庫)/2014年(平成26年)9月初版/定価\670+税 どの藩の経済も傾いてきた寛延3年(1750年)、北国のある藩の上級武士の家に生まれた奥脇抄一郎は、藩札掛となり藩札の仕組みに開眼する。しかし藩札の神様といわれた上司亡き後、飢饉が襲う。上層部は、藩札頭になった抄一郎に、実体金に合わない多額の藩札刷り増しを要求するが、抄一郎はそれを拒否し、藩札の原版を抱え脱藩する。江戸に出た奥脇抄一郎の家業は表向きは万年青(おもと)売りの浪人であるが、実はフリーの藩札コンサルタントとなっていた。戦のないこの時代、最大の敵は貧しさ。飢饉になると人が死ぬ。各藩の問題解決に手を貸し、経験を積み重ねるうちに、飢饉にも耐えうる藩札の仕法と、藩札で藩経済そのものを立て直す仕法に気づく。そんな矢先、東北の最貧小藩から依頼が・・・。抄一郎は、その赤貧小藩の蔵に3年で5万両を蓄え、活気ある経済状況をもたすことを約束する。3年で赤貧の小藩に活気ある経済状況をもたらす仕法とは・・・? そして、家老と共に命を懸けて闘う奥脇抄一郎がみたものは・・・。(2017.11.01) |
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『銀二貫』 高田 郁 (たかだ かおる)・著 幻冬舎時代小説文庫/2010年(平成22年)8月初刷発行/定価\600+税 あの『みをつくし料理帖』の高田郁(たかだかおる、1959年生まれの女性作家)の涙、涙・・・の時代小説。大坂天満の寒天問屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。大火で焼失した天満宮再建のために寄付しようと貯めてきた大金だった。引きとられた鶴之輔は松吉と改め、商人の厳しい躾と生活に耐えていく。料理人嘉平と愛娘真帆ら情深い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、またもや大火が町を襲い、真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す・・・。「松吉は、入れ違いで真帆に逢えなかったことに何か意味があるのでは、と考えるようになっていた。もうひと踏ん張りせえ、てことなんや。今、真帆にあったとして、口を突いて出るのは愚痴か弱音か。そんな恥ずかしい姿を見せたくはない。松吉は、諦めたように息を吐くと、背中の寒天を背負い直して、長い長い橋を歩き始めるのだった。」(文中より引用)。NHKでドラマ化され、宝塚歌劇団で舞台化されていますが、原作本を楽しむのもお薦めです。(2015.12.22) |
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『天の梯 みをつくし料理帖』 高田 郁 (たかだ かおる)・著 角川春樹事務所(ハルキ文庫)/2014年(平成26年)8月第一刷発行/定価\620+税 高田 郁(女性小説家)の連作時代小説『みをつくし料理帖シリーズ 』。神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す『つる家』。店を任され、調理場で腕を振るう澪(みお)は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。各話ごとに話に由来した料理が登場し、巻末にそのレシピが公開されています。2009年5月、第1巻『八朔の雪』の発売から5年、この第10巻『天の梯』で堂々の完結。『食は、人の天なり』―医師・源斉の言葉に触れ、料理人として自らの行く末に決意を固めた澪。どのような料理人を目指し、どんな料理を作り続けることを願うのか。澪の心星は揺らぐことなく頭上に瞬いていた。その一方で、吉原のあさひ太夫こと幼馴染みの野江の身請けについて懊悩する日々。四千両を捻出し、野江を身請けすることは叶うのか! ? 厚い雲を抜け、仰ぎ見る蒼天の美しさとは・・・(ブックカバー文より)(2015.07.08) |
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『朱いちゃんちゃんこ』 中山とし子・著 (株)パレード/2015年(平成27年)5月10日第一刷発行、¥1,000+税 著者は鹿児島県生まれ。家庭の事情で進学の希望叶わず、1968年(昭和43年)高校卒業と同時に大阪の百貨店に就職。しかし、進学の思い断ち切れず、1年で退職。居を奈良に移して、三部制の短期大学に通う勤労学生となる。さらに学びへの飢餓感は、結婚、母となってからも熱い熾(おき)となって心の深いところに居座り続け、英会話学校、日本語教師養成学校に通う。そして、大学通信課程(佛教大学)で学士を得、2004年奈良女子大学大学院博士前期課程を修了。まさに、団塊世代の生粋の『薩摩おごじょ』。汽車での忘れ物がきっかけで届いた『手紙』、あの名著『ある小さなスズメの記録』(クレア・キップス著)を彷彿とさせる『ある鵯(ひよどり)一家の物語』、翻弄されながらも難儀な2つの癖を持つ犬を飼い切った『バイバイ、オヤスミ』、禅が取りもったアメリカ人との『不思議な縁』、日本語教師として分析を試みた『茶わん虫のうた』など20編を収録。読む人の心を、魂を、揺り動かします。お薦めです。(2015.05.20) |
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『ある小さなスズメの記録』 クレア・キップス・著、梨木香歩・訳 文藝春秋/2010年(平成22年)11月第一刷発行/定価1429円+税 1940年。第二次世界大戦中のロンドン郊外で、障碍のあるせいで親の巣から放り出されたと思われる孵化したばかりの一羽の小スズメが一人の老婦人に拾われます。目が割れて初めて世界を見たとき小スズメの瞳にしっかりと映ったのは、彼の『運命の女神』そのものの人物でした。小スズメは彼女を母として、彼女の『えこひいき』をたっぷりと享受しながら、のびのびと育っていきます。小スズメが拾われてから老衰で息を引き取るまでの12年と7週四日間におよぶ英国老婦人との心の交流を描いたストーリー。ヨーロッパやアメリカで空前のベストセラーとなった幻の名作が梨木香歩さんの訳でよみがえりました。歌をうたうエンターティナーとして爆撃機の襲来におびえる人々に心からの慰めを与えたというエピソードもさることながら、老いの現実を受け入れながら意志強く生きようとするスズメの姿は感動ものです。訳者のあとがきまで読まれたい。カバー付きで、大切に読みたい、大切にしたいと思う装幀の素敵な本でもあります。お薦めの一冊です。(2015.02.20) |