コラム  ・吾亦紅(ワレモコウ)   
− 吾亦紅(ワレモコウ) −
田舎に生まれ育った私のまわりには、物心ついた頃から、野山にいろいろな草花がありましたが、それらの草花がどんな名前を持っているかなど興味を覚えることもなく歳月が過ぎました。山野のいろいろの草花にも、それぞれに由来のある名前がちゃんと付けられているのだということが見えてきたのは、恥ずかしながらここ2〜3年のことです。
 
玉簾(タマスダレ)や姫檜扇水仙(ヒメヒオウギズイセン)、野萓草(ノカンゾウ)などがそうでした。
 
ハギ(萩)、オバナ(尾花)、ナデシコ(撫子)、クズ(葛)、キキョウ(桔梗)、オミナエシ(女郎花)、フジバカマ(不藤袴)。これらは秋の七草ですが、秋の花には、渋めな花が多いです。
 
さらに渋めな花に、ワレモコウがあります。紅というより濃いエンジ色と言ったほうが良いような楕円形の実のようなものを付けて、秋の野山にひっそりとたたずむ花です。楕円形の実のように見えるのは、じつは花びらのない小さな花の集まりで、バラ科の花にしては地味な花です。そのため、秋の七草に選ばれなかったのでしょうか。
 
地味ながら、例えば、カスミソウなどと一緒に束にすれば、独特な雰囲気がでます。『草など買ってくるなと、主人に怒られました。』というブログの記事を見かけましたが、最近は華道の花材としてよく使われているようです。
 
・ワレモコウを見る
   → http://washimo-web.jp/Information/waremokou.htm
 
ワレモコウもまた、そのネーミングに興味が持たれる花です。よく注意して見なければ気付いてもらえないような存在だけれども、『私も紅い花なんですよ』と、控えめながら主張している花。そこで、『吾亦紅(ワレモコウ)』という漢字が当てられました。虚子に次の句があります。
 
     吾も亦(また)紅(くれない)なりとひそやかに  高浜虚子
 
『吾亦紅』とは、いかにも控えめな情緒を好む、判官びいきの日本人らしい命名です。ところが、本来は『木瓜(もっこう)』、あるいは『帽額(もこう)』に由来するようです。
 
『木瓜』は、家紋に使われる、瓜(うり)を輪切りにしたときの断面に似た木瓜紋のことです。平安時代の宮廷や神社の御簾(みす)の縁を囲む布のことを帽額(もこう)といいますが、その帽額に織り込んだ文様が木瓜紋だったことから『木瓜』を『もっこう』と呼ぶようになりました。
 
ワレモコウの花が木瓜に似て、蕾が十字に割れることから『割木瓜(ワレモコウ)』と呼ばれるようになったようです。ほかに、『吾木香』と書いたり、『吾も恋う』と書いたりします。福永耕二は、秋の夕日のなかにワレモコウをみごとに浮かび上がらせています。
 
     吾亦紅夕日といへど眼に痛く  福永耕二
 
     鉄瓶に活くるとすれば吾亦紅  ワシモ
 
 

2006.10.11 
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