コラム | ・秋海棠 |
− 秋海棠 −
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夏の終わりから秋にかけて花を咲かす園芸植物の一種に秋海棠(シュウカイドウ)があります。薄桃色の花がバラ科リンゴ属の花海棠(ハナカイドウ)に似ていることからその名をもらいました。 しかし、秋海棠はシュウカイドウ科シュウカイドウ属に分類される多年生草本球根植物であり、4月ごろに花を咲かすバラ科の小高木である花海棠(あるいは単に海棠)とは全く異なります。 秋海棠は学名を Begonia evansiana と言いますから、ベゴニア(Begonia )の仲間で、花もベコニアに似ています。原産地は中国。日本には江戸時代に中国から観賞用に移入されました。 さて、秋海棠は『相思草』『断腸花』という別名をもらっています。これは中国の伝説に由来するそうです。伝説にはいくつかのバージョンがありますが、共通するのは、相思相愛だった男性と引き離されてしまった女性が断腸の思いで男性の帰りを待つというストーリーです。 垣根や家の日影を好んで花を咲かす秋海棠。一日中、垣根から身を乗り出すようにして、腸がちぎれるほど悲しくて辛い思いで男性の帰りを待つ女性の流した涙がやがて秋海棠の花となって咲いたというのです。 明治・大正・昭和期の小説家で随筆家の永井荷風は、「(大正六年)九月十六日、秋雨連日さながら梅雨の如し。夜壁上の書幅を挂け替ふ。」で始まる『断腸亭日乗』という日記を書いています。日乗とは日記のことです。 荷風は、死の前日の1959年(昭和34年)4月29日までこの日記を書き続けましたが、日々の断腸の思いを綴った日記では決してありませんでした。荷風は37歳の時、新宿区余丁町(よちょうまち)に家を新築し、庭に秋海棠を植えて『断腸亭』と名付けました。日記の名前はこれに由来します。 秋海棠の葉は、左右が非対称でアンバランスなハート型をしています。もしかしたら断腸花という悲恋物語の別名は、この非対称のハート型の葉の特徴に由来するのかも知れません。 一方、秋海棠は『瓔珞草』という別名ももらっています。瓔珞(ようらく)は、宝石などを連ねて編み、仏像の頭・首・胸などにかける飾り玉のことで、花がこれに似ていることに由来します。こちらは綺麗な名前です。 |
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