レポート  ・黒酢物語   
− 黒酢物語 −
鹿児島湾の最も奥まったところに広がる霧島市。そのまた東端部の、桜島を斜め後ろから望む位置に、黒酢のふるさと・霧島市福山町があります。前面に鹿児島湾の海原が広がり、後背に急斜面のシラス台地が迫る、人口 7,500人弱の風光明媚な町です。
 
温暖な気候、豊富な米、良質な地下水そして薩摩焼の壷。酢つくりに必要なこれらの条件に恵まれて、福山地方で『アマン』と呼ばれる『つぼ(壷)造りの酢』の製造が始まったのは、今から 約200年前の江戸時代後期の頃と言われます。
 
福山でつぼ酢つくりが始まるとその優れた品質が評判を呼び、瞬く間に多くのつぼ酢醸造所が建てられ、最盛期には24軒の醸造所が福山に軒を並べ、旧薩摩藩(鹿児島県全域・宮崎県南部)内の酢の需要を100%まかなう大盛況振りだったそうです。
 
ところが、第二次世界大戦が勃発すると原料となる米の統制が始まり、加えて、石油を合成してつくる非常に廉価な合成酢が台頭してきて、福山の醸造業は転業を余儀なくされました。
 
そんな中で一軒だけ伝統の酢つくりを守り続けた醸造所がありました。現在の坂元醸造(株)の先々代社長の坂元海蔵は、原料を米からさつまいもに切り替え細々ながら酢つくりを続けました。しかし、それでも苦境に立たされた坂元海蔵は『自分の代で酢つくりは廃業する、息子には別の道を歩ませる』と決意します。
 
息子の坂元昭夫(先代社長、現会長)は、九州大学の医学部薬学科に進み、製薬会社に就職後、鹿児島に帰郷して国立鹿児島病院の隣りに薬局を開業します。その薬局に父の作ったつぼ酢を並べ、病院の患者に飲用をすすめたところ、五十肩や慢性肝炎など、今まで治らなかった病気に効果があったという声が多数よせられました。
 
そこで、同級生だった九州大学の薬品分析学の教授に分析を依頼したところ、豊富な種類のアミノ酸やペプチド等が含まれているという驚くべき結果が報告され、本格的に酢つくりを再開することになりました。
 
当初は県内向けに料理用として製造販売していましたが、昭和40年頃から有害食品が問題となると、つぼ造り純米酢の良さが見直され全国に販売されるようになりました。坂元昭夫は、琥珀(こはく)色の米酢が熟成されるほどに黒色に変化していくことから、初めて『黒酢(くろず)』という言葉を使って命名しました。
 
商標として登録されていなかったため、『黒酢』は一般名として使われるようになり、色が黒っぽければ『黒酢』と呼び、原料も製法も値段もさまざまなものが出されるようになりましたが、黒酢の原点は福山のつぼ造りにあります。 
 
酢の製造は一般に、(1)でんぷん質の原料を、麹(こうじ)菌を使って糖分に変え、(2)糖分に酵母菌を作用させてアルコールにします。そして、(3)アルコールに酢酸菌が働いて酢が出来上がります。
 
すなわち、酢を作るには、麹菌と酵母菌と酢酸菌が必要ですが、福山のつぼ造りは、アマン壷と呼ばれる薩摩焼の壷の中に『蒸(むし)米』と『米麹(こうじ)』と『地下水』だけを入れて一年以上寝かせれば、一つの壷の中で自然に、糖化・アルコール発酵・酢酸発酵の3つの過程が、とくに菌を加えることなく進行するという、世界でも類をみない製造法でつくられます。
 
アマン壷を東京のある大学に持ち込んで醸造しようとしましたが同じものは製造できなかったそうです。福山では、アマン壷が畑に野ざらしにして並べてあります。薩摩焼には、細かな穴があって通気性があります。福山の土壌中の微生物がその穴を通って壷の中に入り、また長年使用している壷には微生物が棲み付いていて、菌の働きをしているのではないかと考えられています。
 
坂元醸造(株)では、それぞれ一年、二年および三年寝かせた一年もの、二年もの、三年ものを販売しています。寝かせる年数が長いほど色が濃くなってまろやかになりますが、酢としての効用は一年ものも三年ものも変わらないそうです。
 
原液をストレートに飲むと刺激が強いので、通常は5倍以上に薄めて飲みます。また、原液を飲むより、薄めた方が吸収が良いそうです。酢の味がほとんど分からないぐらいに薄めて飲んでも、酢が体内に入ることには変わりないので効用は変わらないそうです。いくら飲んでも害にはなりませんが、原液で1日30ミリリットル(大さじ2杯)が目安のようです。朝晩、大さじ一杯ずつの原液を水や牛乳やジュースなどで5倍以上に薄めて飲めば良いということになります。下記に旅行記がありますので、併せてご覧下さい。                        (文中敬称略)
 
旅行記 ・黒酢を訪ねて − 鹿児島県霧島市福山町
 
【備考】
このレポートは、霧島市福山町にある坂元醸造(株)のつぼず情報館『壷畑』を訪問して見聞きしたことをまとめたものです。
 
・坂元醸造(株)の公式ホームページアドレスは
   → http://www.kurozu.co.jp/
 

2006.09.20 
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