コラム | ・初鰹(はつがつお) |
− 初鰹(はつがつお) −
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本格的な梅雨に入っていますが、鰹(かつお)が食卓にあがり、早暁からホトトギスがけたたましく鳴き、まさしく江戸中期の俳人・山口素堂(1642〜1716)の『目には青葉山ほととぎす初鰹』という一句が思い出される季節でもあります。 鰹はスズキ目サバ科カツオ属に属する魚で、全世界の熱帯・温帯海域に広く分布しています。19〜23℃程度の暖かい海を好む魚で、南洋では一年中見られますが、日本では黒潮に沿って春に北上し秋に南下する、いわゆる回遊魚になっています。 鰹の旬は年に2度あります。春から初夏にかけて黒潮にのって太平洋岸を北上する鰹が『初鰹』で、秋の水温の低下に伴い、陸海岸沖辺りから関東以南へ南下してくる鰹が『戻り鰹』です。 9月から10月にかけての戻り鰹は脂が多く、質の良い物はマグロのトロにも負けない脂のうまさがあるといわれます。これに対して、北上の鰹は脂が乗っていないためさっぱり味ながら、『初鰹』は江戸時代に初物好きの江戸っ子に珍重されました。 もう少し待てば多く出回り、味も値段も安定するのに、それを待つのは野暮というもの、初物に手を出すのが江戸っ子の粋の証というわけで、先行の鰹はに人気が集中しその分値段が高騰しました。 宝井其角(1661〜1707)は『まな板に小判一枚初鰹』と詠い、1812年に歌舞伎役者・中村歌右衛門は一本三両で購入した記録があるそうです。一両あれば親子三人が三ヶ月暮せた時代にです。 また、江戸中期の京都の漢詩人・中島棕隠は、『蚊帳を殺して鰹を買う食倒れの客』(蚊の季節に蚊帳を金にかえてでも鰹を買う)と江戸の鰹狂いを揶揄する詩を遺しています。 山口素堂の『目には青葉・・・』の句は、季語が3つもある『季重なり』であるうえ、上句・中句・下句がつながっていない、いわゆる『三段切れ』で、作句の常道を逸脱している句です。 なのに、名句と言われるのは、春から夏にかけて江戸っ子が最も好んだ3つのものを詠んで一躍有名になったことによるのでしょう。『目には青葉・・・』の返歌となる川柳に『目と耳はただだが口は銭がいり』といったものがあるは面白いです。 【参考にしたサイト】 (1)カツオ - Wikipedia
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