コラム  ・俳句鑑賞『自然薯、とろろ』   
 
俳句鑑賞『自然薯、とろろ』
自然薯(じねんじょ)、とろろ、共に秋の季語である。自然薯は、ヤマノイモ科の蔓性多年草の根茎であり、山芋(やまいも)ともいう。栽培される長芋に対し、山野に自生していることから自然薯の名がある。根は長大で多肉、地下に深く下りていて、掘り出すのに技術を要する。栽培される長芋より粘りが強い。

  この橋を自然薯掘りも酒買ひも  高野素十
  自然薯を暴れぬように藁苞(つと)のなかに 杉本雷造

  狐ききをり自然薯掘のひとり言  森澄雄
  相悪き自然薯にして旨かりし   能村登四郎
  山の駅自然薯掘りが乗り込みぬ  宮嵜亀

  自然薯をさぐり来世も男なり   斎藤棹歌
  歌好きの自然薯掘りでありにけり 高橋将夫

とろろは、自然薯または長芋をすり下ろしたもの。汁物にしてとろろ汁、吸物にして吸いとろ、麦飯にかけて麦とろ、などとして食べられる。とろろをマグロのぶつ切りにかけた料理を山かけという。山かけ蕎麦や山かけうどんなど、とろろをかけることを山かけと呼ぶものもある。

  うまの合ふ夫婦となりてとろろ飯 高澤良一
  どことなく似てきし夫婦とろろ汁 高村洋子

  風をきく山家の暮しとろろ汁   出口貴美子
  とろろ汁豊かな昭和にもう会えぬ 貝森光洋
  早食ひを諫むる間なしとろろ汁  田中貞雄

  とろろ汁と決めて鞠子の宿に入る 落合絹代
  丁子屋に芭蕉さんの間とろろ汁  近藤幸三郎

− 「名ぶつ とろろ汁」の看板が見える ー 
歌川広重『東海道五十三次・鞠子』
− 1596年(慶長元年)以来場所を変えずに営業を続けている ー
とろろ汁の丁子屋(ちょうじや)

郷土料理としては江戸時代、東海道鞠子宿(まりこしゅく、丸子宿とも書く、現在の静岡県静岡市駿河区丸子)のとろろ汁が有名であった。松尾芭蕉は「梅若菜丸子の宿のとろろ汁」と詠んでいる。

十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に鞠子の名物として書かれ、歌川広重の『東海道五十三次』では「名ぶつ とろろ汁」の看板を掲げた茶屋が描かれている。丸子には、かつて十数店のとろろ汁の店があったが、時代とともに変化し、現在は5店のみとなっている。

そのうち、丁子屋(ちょうじや)は戦国時代末期の1596年(慶長元年)の創業で、創業以来現在まで場所を変えずに営業し続けている。丁子屋ととろろ汁は、2020年に文化庁の文化財保護制度「日本遺産」のストーリーの構成文化財の1つに認定された。

  2023.11.01
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