コラム  ・忍冬(スイカズラ)   
 
忍冬(スイカズラ)
今、スイカズラの花が満開です。子どもの頃、花を口にくわえて甘い蜜を吸った経験をお持ちの方は多いことと思います。日本原産の花で、和名のスイカズラ(吸い葛)は、文字通り、甘い蜜を吸うことにちなみます。英名のハニーサックルも、やはり蜜(honey)を吸う(suck)ところから名づけられました。
 
冬場を耐え忍び、枯れずに残ることから忍冬(ニントウ)という中国名を持ち、漢方薬名に用いられています。スイカズラの蔓と花がからみ合った唐草模様は忍冬文と呼ばれ、法隆寺から出土された瓦に忍冬唐草文字瓦と名付けられたものがあります。
 
金銀花(キンギンカ)という異名ももらっていますが、これは花色が白から黄色に変化することに由来します。日本原産の植物でありながら、海外での方が人気が高く、たとえばモン・ゴメリー作の『赤毛のアン』やシェークスピア作『真夏の夜の夢』などにも登場します。
 
生まれてすぐに両親を相次いで亡くしたアンが想像する生家には、ライラックやスズランとともにスイカズラが植わっています。ハニーサックルという名の香水は、スイカズラの花の精油を原料にした香水。花や蕾を砂糖とともに焼酎に漬け込んだ忍冬酒は美味しいとか。
 
俳句では、忍冬の花(すいかずらのはな)が夏の季語になっており、子季語に忍冬(すいかずら)、忍冬(にんとう)、吸葛(すいかずら)、金銀花(きんぎんか)があります。
   
忍冬のこの色欲しや唇に
忍冬の籬の家に老いにけむ
牛うまれ牧をいろどる金銀花
すひかづら採りきてわれに嗅げといふ
かまひなし墻を越えきしすひかづら  
三橋鷹女
田中冬二
大島民郎
上田五千石
星野麥丘人
 
2句目の籬(まがき)は、竹・柴(しば)などをあらく編んで作った垣のこと。また、最後の句の墻(へい)も土や石でつくった垣根のこと。垣根にスイカズラを植えることはよくされていたようです。
 
俳人の石田波郷は、昭和33年(1958年)に練馬区谷原町の新居に移ると、そこの仕事場を『忍冬亭』と呼び、生垣のスイカズラをこよなく愛したといわれます。石田波郷の忌日である11月21日を『忍冬忌』ともいうのはこのためです。
 
忍冬(スイカズラ)
蔓性の木本らしく、かけ上っています。
花色が白から黄色に変化することから金銀花とも呼ばれます。
  

  2022.05.25
あなたは累計
人目の訪問者です。
 − Copyright(C) WaShimo All Rights Reserved. −