コラム  ・最近の作句から   
 
最近の作句から
つたない俳句で恐縮ですが、著者が最近(2022年9月〜10月)詠んだ作品を3つ取り上げて、いくつかの考察を行ってみました。最初は、甑島をテーマにした写真・絵画・俳句等の作品を対象にした『第27回トンボロ芸術村コンテスト』(2022年)の俳句部門で、奨励賞を頂いた作品です。

   鳩十の犬の遠吠え星月夜

季語は『星月夜』で秋の季語。月のない夜に満点の星が輝いていて、まるで月が出ているかのように明るい。そんな星の輝かしさを称えて星月夜といいます。星月夜に犬が遠吠えしている光景ですが、問題は「鳩十」。

「鳩十」は児童文学作家・椋鳩十(むく・はとじゅう、1905〜1987年)のことです。椋鳩十は、昭和38年(1963年)に『孤島の野犬』という作品を書きました。下甑島の人たちから聞いた話をもとに書いたこの作品には、人間の身勝手さに翻弄される野犬たちの哀しさとたくましさが愛情をもって鮮やかに描かれています。

孤島の野犬像(下甑島)
この名作が生まれたことを記念して、平成11年(1999年)に下甑島に文学記念碑『孤島の野犬』像が建立されました。これらのことを背景にして詠まれた句だということが分からないと、理解されにくい俳句かも知れません。

   浴室にばった逃してやりにけり

風呂を沸かそうと浴室を開けると、どこから入ったのかばった(バッタ、飛蝗)がいるので逃してやったという、ただそれだけの、とてもシンプルな句ですが、虫の命を尊ぶ優しさが詠われています。

ところで、この俳句のような形を『句またがり』といいます。俳句は五七五が定型です。この句を五・七・五で区切るとつぎのようになります。

   「よくしつに ばったにがして やりにけり」

「浴室にバッタを逃がしてやった」という意味でなく、「浴室にばったがいた」そこで「逃してやった」という意味ですから、意味の切れ目で区切ると、

   「よくしつにばった にがしてやりにけり」

すなわち、中七の「ばったにがして」という7文字が、意味の2つの切れ目をまたいで使われているので『句またがり』と言います。語句の切れ目と、意味の切れ目にずれが生じ、それが新たなリズムを生めば、成功といえるわけです。

   囮番兄の寄越せし握り飯

季語は『囮番』(おとりばん)で秋の季語。小鳥狩りで、小鳥をおびき寄せる時に用いる鳥のことを『囮』(おとり)といい、その鳥を入れておく籠を『囮籠』といいます。いずれも秋の季語。

囮籠の近くの木や竹の枝に鳥黐(とりもち)はつけておいたり、霞網をおいたりすると、囮の鳴き声に誘われてやってきた他の鳥がかかります。囮番はその瞬間を見張る役。弟が囮番をさせられ、兄がおにぎりを差し入れるという景を詠んだ句です。

野鳥保護の観点から現在ではこのような猟は禁止されているので、昭和30年代の後半頃を思い出して詠ん回想句です。この句も『囮番』の意味が分からないと理解されない句に違いありません。この句を読んで刑務所をイメージしたという人がいました。


  2022.11.23
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