レポート  ・ひとりじめスイカ   
− ひとりじめスイカ −

学校は夏休みが終わって二学期が始まりました。スイカ割りや絵日記など、団塊の世代にとってスイカは、子供の頃の夏の思い出と切っても切れないほど身近な果物で、甘くて美味しい夏の食べ物の代表でした。


それが最近は、冷たくて甘い食べ物は、より取り見取りで、果物もオレンジ、キウイ、パパイア、マンゴーなどいろいろなものが店先に並んでいます。食べ物の多様化に押されてスイカの消費が最近落ち込んでいるようです。



スイカの生産量の減少

熊本県植木町は、作付面積・出荷量とも日本一を誇るスイカの産地です。1970年(昭和45年)頃から米の生産調整のための転換作物としてハウス栽培が盛んになり、3月から6月にかけての早出しを関東や関西に出荷して重宝されてきました。


しかし、1978年(昭和53年)に1080ヘクタールあった作付面積は、2002年(平成14年)には642ヘクタールに、収穫量も5万1900トンから2万9300トンに減少しました。


食べ物の多様化とともに、スイカの消費の落ち込みのもう一つの要因として少子化、高齢化に伴う「世帯規模の縮小」があげられます。



世帯規模の縮小

国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の世帯数の将来推計(2003年10月推計)」によると、従来「標準家庭」と言われていた「夫婦と子からなる世帯」は、かつて一般世帯の40%以上を占めていましたが、2000年時点で全体の約32%まで減少してきています。


そのかわり、「単独世帯」「夫婦のみの世帯」「ひとり親と子からなる世帯」が増加してきました。今後もその傾向が続き、2007年以降は「単独世帯」が「標準家庭」を超えて最も多い家族類型になり、2025年には「単独世帯」が約35%に、「標準家庭」が約24%になると予測されています。



ひとりじめスイカ

大玉のスイカは、少人数では丸ごと1個食べきれません。残りを冷蔵庫に入れようとすれば場所をとり、また大きいスイカは生ゴミになる皮の量も多く、敬遠されがちです。そこで、植木町が着目したのが直径約20cmの小玉スイカです。半分が、ちょうど1人分くらいで、少人数でも楽に丸ごと1個食べられる大きさです。


従来、小玉スイカは大玉に比べてどうしてもシャリ感や糖度が劣るという難点がありましたが、大玉に負けないシャリ感と糖度の小玉種が奈良県の農場で開発され、『ひとりじめ』と命名されました。ネーミングがいいですね。いかにもその開発意図がよく表現されていて、「独り占めしてネ!」とねだっているような名前です。植木町は、この小玉スイカで巻き返しを図ろうとしているのです。



標準家庭の消滅とともに

戦後の日本における住宅やその付帯設備である電力・給湯設備、そして冷蔵庫の大きさや車のサイズなど、いろいろのものが夫婦と子からなる「標準家族」、あるいは夫と妻と子供二人の「標準世帯」を基準にしてプランニングされ、作られてきました。


また、年金や保険、税などの社会制度におけるいろいろな算定やサラリーマンの賃金交渉などで基準とされてきたのが、「標準家族」や「標準世帯」でした。


しかし、「標準家庭の消滅」にともなって、従来の「標準」が標準でなくなってきています。ひとりじめスイカの出現に象徴されるように、ものづくりや経済、そして社会制度なども、標準の変化に対応して変わって行かざるを得ないと思われます。


子供が生まれて成長するにしたがって、家は改築されて大きくなり、車はカローラ(トヨタの小型車)からクラウン(トヨタの高級中型車)へ、テレビも一人に一台に、冷蔵庫はワンドアから4ドアになりました。


しかし、これからは、買い替え需要も以前よりは少なくなり、買い換えるとすれば小型化が志向されるでしょう。クラウンは、ヴィッツ(トヨタの小型車)やフィット(ホンダの小型車)に、あるいは、クラウンさえツーシーター(二人乗り)化されるかも知れません。


需要が細り経済が縮めば、さらに少子化が進んで需要が細るというスパイラルに陥る危険性はないでしょうか。世帯標準の変化は、経済だけでなく、年金や福祉、税制や賃金などの有り方に変更を与え、私たちの生活に影響を及ぼすことになるでしょう。少子化の進行に歯止めをかける抜本的な施策が望まれます。


〔備考〕
本レポートは、下記のサイトを参考にして書きました。
◆ルポタージュ’04
    → http://kyushu.yomiuri.co.jp/spe-4/rupo04/rupo040414.htm
◆株式会社 萩原農場のスイカネット
    → http://www.suika-net.co.jp/
◆『日本の世帯数の将来推計(全国推計)2003(平成15)年10月推計』
 (国立社会保障・人口問題研究所)
    → http://www.ipss.go.jp/Japanese/Hprj2003/hprj2003.html



2004.09.08  
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