レポート  ・クレヨンしんちゃん 〜 商標権の怪   
− クレヨンしんちゃん 〜 商標権の怪 −
ご承知の通り、『クレヨンしんちゃん』は、1990年に双葉社(東京)の『週刊Weekly漫画アクション』で連載が開始された臼井儀人著の漫画で、1992年からはテレビ朝日系列でアニメ放映も開始され、現在も放映が続いている人気番組です。
 
放映初期の頃は、主人公であるしんのすけが、おちんちん(しんのすけや家族などは『ゾ〜さん』と呼んでいる)やおしりをプリプリするシーンや、親や大人を嘲弄する場面が多々あって、ひんしゅくを買い、子供たちに見せたくない『低俗番組』の筆頭として日本PTA協議会などの槍玉にあげられました。
 
しかし、最近は路線変更され、教科書や子育て参考書に掲載されたりして、評価が変わってきつつあるようです。スペインやインドネシア、インド、韓国など多くの国で放送され、今や世界的に大人気のテレビアニメになっています。
 
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この『クレヨンしんちゃん』のキャラクター商品を、著作権を管理している出版元の双葉社が、上海などで販売したところ、絵柄をコピーした商品が『蝋筆小新』(中国名のクレヨンしんちゃん)として既に中国で商標登録されていたため、本物が『商標権侵害』で訴えられ、商品が売り場から撤去させられるという事態が起きたのです。
 
経緯はこうです。出版元の双葉社は、1994年に日本で商標登録をし、翌年には台湾で、中国語表記である『蝋筆小新(ラービィ シャオシン)』(クレヨンしんちゃん)を商標登録し、アニメのテレビ放映と漫画本の発売を始めましたが、中国ではアニメ放映や漫画本の販売をしないこともあって、商標登録をしなかったのです。
 
ところが、台湾でアニメ放映や漫画本の発売が始まると、中国で海賊版グッズが出回わるようになり、1997年に広東省の中国企業が、絵柄と『蝋筆小新』を商標登録して『クレヨンしんちゃん』グッズを販売し始めたのです。
 
2004年4月に、双葉社は、ライセンス契約を結んだ上海の業者を通じて、『クレヨンしんちゃん』グッズの販売を中国で開始しましたが、同年6月『コピー商品を売っている』と訴えられ、商品を売り場から撤去させられたのです。
 
2005年1月、双葉社は、中国の地方裁判所に対し、コピー商品の商標登録取り消しを請求しましたが、今年(2006年)9月、双葉社の訴えを退ける判決が下されました。
 
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今回の事態は、『海賊版天国の中国のことだ、けしからん!』と中国を批判するだけでは済まされない問題を含んでいるようです。著作権と商標権は、別の問題であり、中国企業の『蝋筆小新』の商標取得は、中国の商標法で定めている、(1)商標出願、(2)公開(公示)、(3)登録許可、(4)登録証発行という正当な手続きで行われており、それが問題であるという言い方はできないそうです。
 
公開後、所定の期間中に誰からも異議申し立てがなければ登録許可になる、いわゆる先願主義に基づく仕組みは、どこの国でもほぼ同じだそうです。また、中国企業が商標権を獲得してから8年もの間、双葉社が何もしなかったことが、中国企業の正当な権利を印象付ける結果になっているというのです。
 
今回の事態は、知的財産権に関する緻密な国際戦略の必要性を物語る教訓になっているようです。それにしても、紛れもない日本の茶の間の様子や日本の街中の風景が描かれているアニメが世界的な大ヒットとして受け入れられているのですから、日本の『文化力』を感じます。
 

2006.10.18 
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