エッセイ  ・藤の花、桐の花   
− 藤の花、桐の花 −

4月末から5月にかけて、全国の藤の名所では、今年も薄紫色の総状花序を多数垂らした棚作りの藤が綺麗だったことでしょう。我が家では、毎年その時季になると、庭先からすぐ近くに見える雑木林の大きな杉の木に、数本の野生の藤が天辺(てっぺん)まで這(は)い上がって見事な花を咲かせます。


藤は、マメ科の蔓(つる)性の落葉樹で、北海道を除く全国の山地に野生する日本原産の花木で、古くから古事記、万葉集、枕草子、源氏物語などに多く登場し、和歌や俳句などの題材や家紋のモチーフにもなったりして、親しまれてきました。


一方、桐はゴマノハグサ科の落葉広葉樹で東アジア特産の植物です。高さが8〜15mぐらいになります。『桐』という漢字は、『木』に『同』と書くように、桐は、木と同じに違いないですが、ゴマノハグサ科という草の仲間で、木と異なった不思議な性質を持っています。植えて2年ぐらいしてから、一度根元から切った方が成長が速いので、「一度切る」ところから「キリ」と呼ばれるようになったという説があります。


カビや虫が付き難く、吸水性が無く湿気を通さない、狂わず丈夫である、燃えにくい(杉の発火点が240℃程度であるのに対して、桐の発火点は425℃)などの性質を生かして、昔から和箪笥(たんす)や桐箱の材料として使われてきました。また、吸音性があるので、琴や琵琶などの楽器を製作する材料にも適しています。


杉の80年、松の40年に対して、桐の成長年数は15年だといわれます。成長の速い木なので、昔は女の子が生まれると、桐を植え、嫁に行くときにそれで箪笥や長持ちを作って持たせたと言われます。


そのような桐は、家紋のモチーフにもされ、また文学の世界にも早くから登場します。源氏物語で桐壺は、宮中の庭に桐の木が植えられていたことに由来します。俳句では、高浜虚子や正岡子規など多くの俳人が桐を詠み込んでいます。


桐の花をご存知でしょうか。つぼみを前の年につけ、翌年の5月頃枝先に薄紫色の円錐花序の花を咲かせます。
 ・桐の花 → http://park12.wakwak.com/~tks/5gatsunohana.htm


日本の文学や文化、そして生活と深くかかわってきた純日本的な花と思っていた藤が、ドイツの古都ハイデルベルクやライン川クルーズ発着の町リューデスハイムに、桐がパリ市庁舎近くの庭に咲いていたのです。意外なことでした。


藤は、棚作りではなく、建物の壁に沿わせてあり、桐は綺麗に手入れされた芝生仕立ての広い庭に植えられていました。
 ・ドイツ/フライブルクの藤
     → http://www003.upp.so-net.ne.jp/freiburg/freiburg12.html


藤も桐も薄紫色の花です。紫は、大化の冠位十二階の制度にも見られるように、古くから高貴な色とされてきましたが、反面、着こなすのが難しい色といわれています。中世の旧市街地に咲く薄紫色の藤と桐の花は、その色調と姿や形が赤褐色や黄褐色、ライトグレイの建物と実によくマッチしているのです。お互いに補間し合って、お互いの雰囲気を引き出しているかのようです。


ヨーロッパの人たちは、そんな藤や桐の花に東洋の雰囲気を感じ、愛(め)でているに違いないと思うのは、日本人である私の思い過ごしでしょうか。調べてみると、果たして日本にゆかりがあるようです。


ヨーロッパの桐は、ドイツ人医師シーボルトが在日中に採集してヨーロッパに持ち帰り、パウロニア・インペリアルと命名し、藤もやはりシーボルトが日本から持ち帰ったのがヨーロッパに広まったようです。


1866年に長崎オランダ商館付医師として日本にやってきたシーボルトは、日本研究の先駆けとなった人でもありました。彼は、日本の多くの文物をヨーロッパに持ち帰り、「Nippon」、「日本動物誌」、「日本植物誌」などを著し、日本ブームの火付け役になりました。とりわけ、日本固有の植物に関心を示し、愛人の「お滝さん」の名前にちなんでアジサイに「オタクサ(Otaksa)」という学名を付けたほどです。


園芸的価値のある野生植物が少なかったヨーロッパに、日本の植物を導入してヨーロッパの園芸を豊かなものにしたいと思ったシーボルトは、ケヤキや木瓜(ぼけ)、アケビの花などを持ち帰りました。その中に藤や桐も含まれていたのです。


ヨーロッパで見た藤と桐の薄紫色の花の残像は、旅の思い出とともに私の脳裏にいつまでもとどまるでしょう。


【備考】
実際は、ホームページにアップロードする枚数の10数〜20倍程度の数の写真を撮りますが、それでも良いシャッターチャンスに恵まれなかったり、撮り損じたりするものです。今回も残念ながら、肝心の藤と桐の写真が撮れませんでした。そこで、『桐の花』については、「西荻大全」さんの、『藤の花』については、「かお」さんのサイトへリンクを貼らせて頂きました。Homeアドレスは以下の通りです。
◆「西荻大全」さんのホームページのHomeアドレスは、
  → http://park12.wakwak.com/~tks/index.htm
◆「かお」さんのホームページのHomeアドレスは、
  → http://www003.upp.so-net.ne.jp/freiburg/index.html



2004.05.29  
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