書籍紹介  ・最近読んだ本/お薦(すす)めの一冊(2)   



【書籍のご案内・book】

人びとのかたち』

塩野七生・著/新潮社発行/1995年1月発行/定価¥1,400
(新潮文庫/1998年11月発行、定価\476


「おとなの純愛」「男女の友情」「不倫」「差別について」「言葉について」「女の生き方」「夢を見ること」など、映画をこよなく愛し映画に造形の深い塩野七生の、映画や俳優を題材にしたエッセイ集です。懐かしい映画や俳優がたくさん登場します。ただの映画評論とは違って、恋愛、友情、正義、差別等々のテーマについて著者の思いや価値観、美意識が短く凝縮されて小気味よく語られて行きます。映画ファンでなくても面白く読めます。映画ファンの方なら、エッセイ集を読んで、懐かしい映画を再鑑賞してみるのも楽しいかも知れません。


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(C)新潮社

『五年の梅』

乙川優三郎・著/新潮社発行/1995年1月発行/定価\1,500

2002年に直木賞を受賞した乙川優三郎の受賞前の作品。人生に近道などなかった。藩主への諌言(かんげん)を胸に男は、許嫁(いいなずけ)に別れを告げた。女は失意のうちに、違う男の許へ嫁いだ。そして五年の時が流れ、自分の短慮を振り返る男。ついに男のことが忘れられなかった女。うららかな春の日に再会した二人は・・・・・。深い人間洞察と暖かな視線に満ちた表題作など全五編を納めた傑作短編集(帯カバー案内の文章から)。表題作のほか、「小田原鰹」「蟹」もなかなか傑作です。

〔小田原鰹〕鹿蔵は愛想をつかされ、39歳のときに一人息子の政吉に、50歳のときに女房のおつねに家を出て行かれる。果ては、悪事の片棒をかついで捕まり、入れ墨の身となる。住人の視線は冷淡である。孤独感と寂寥(せきりょう)感の中で鹿蔵はいつしか60の声を聞く。そんな初夏のある日、家主のもとに、おみちという女から、鹿蔵宛てに初鰹が届く。「長屋のみなさんと召し上げれ」と添え書きがある。翌年も翌々年も江戸で一番早く初鰹が届く。鹿蔵は、世間と付き合えるようになるにつれて変わってゆく。60も5を数える頃になって始めて人間の心持ちというものを知る。鹿蔵はおみちという女のことを命の恩人のように思う。女は、自分の人生を見つけながらも、あんな男だったけど、なぜか済まないことをしたように思われて忘れられない。


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(C)WaShimo
星宿海への道』

宮本輝・著
幻冬舎/2003年1月10日第1版発行/定価\1,600


 中国南西端のカシュガル近郊より、燃え盛る想いを胸に瀬戸雅人は忽然と姿を消した。父の顔も知らぬ幼な子せつをかかえて生きる千春と、兄を追う弟・紀代志のたぎる想い。戦後、大阪の名のない橋の下で盲目の実母とともに物乞いをして過ごした雅人は、少年時代より、かって中国の黄河源流であったとされる「星宿海」に憧れていた。大阪、尾道、そして瀬戸内の島々を舞台に、しだいに浮かびあがる色濃い人間模様。その愛しい生命の絆の再生を鮮烈に描く、圧倒的抒情に貫かれた宮本輝の最新長編小説。
 「汚れた、破れ穴だらけの、黒ずんだ服を着た、目を覆いたくなるような境遇の親子から漂っていた荘厳さとは何だったのか。」「その瞳に、境遇を哀しむ翳(かげ)はなく、母親と一緒にいることが嬉しくて仕方ないという輝きが失われることもありませんでした。」「人間の足跡どころか、いかなる生き物の足跡もない死の砂漠を歩いてみたことがおありでしょうか。あれは恐怖と蠱惑(こわく)が混ざりあって湧き出てくるある種の快楽といえるかもしれません。」(以上本文から引用)。 砂漠と風紋だけしか見えないタクラマカン砂漠の前方に見えるのは、星宿海に浮かぶ在りし日の母の姿か・・・・。感動とともに、人間の絆に熱い余韻の残る一作です。

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(C)新潮社
『桜の樹の下で(上)(下)』

 渡辺淳一・著
 新潮文庫/1993年3月25日第1版発行/定価\400&\440


東京の出版会社社長・遊佐は、京都東山の料亭「たつむら」の女将・菊乃と深い関係にあった。が、その年の桜見物に菊乃の代役をつとめる娘・涼子の初々しさに惹かれていく。五月の連休、遊佐と涼子は、北上する桜前線を追って、秋田の角館(かくのだて)の旅に出る。満開のソメイヨシノの巨木には艶麗(えんれい)を超えて妖しい美しさがある。桜の樹の下には霊鬼が棲むという。遊佐は、桜の精のあやかしさに魅入られるように母と娘を同時に愛してしまう。決して犯してはならない禁忌を破りながら、なお求めあう男女。母と娘が同時に同じ男を愛してしまった悲劇の中に、悦楽と背徳の美の世界を精緻に描き出す長編小説。京都東山、円山公園、平安神宮、大原三千院、東京千鳥ケ淵、秋田角館などの桜が登場します。花明かり、花疲れ、花追い、花冷え、風花(かざはな)、染井吉野、紅枝垂れ桜。国文学者・評論家の小川和佑氏の解説も良いです。

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(C)WaShimo
『冬の標(しるべ)』

 乙川優三郎・著
 中央公論新社/2002年12月10日初版発行/定価\1600


東国小藩の武家の娘、明世(あきよ)は、南画の世界に一生を投じようと心に決め、13歳のときから「思い川」の川縁(かわべり)にある画塾有休舎へ通う。しかし、武家の娘が嫁にも行かず一生を南画に生きることの許される時代ではなかった。18歳のとき強いられるまま嫁ぐ。絵に対する周囲の無理解、そして夫と舅(しゅうと)の死による婚家の没落。跡取息子と介護の必要な姑(しゅうとめ)を抱えて逼塞(ひっそく)した生活に追われる。やがて、姑とのささいな諍(いさか)いをきっかけにして、18年ぶりに「思い川」の川縁に佇む明世。かっての画塾仲間で、貧しい武家の次男坊から婿養子になった光岡修理との再会。明世は、20数年の時を経て、燠(おき)のように内部で赤々と燃え続けてきた南画の世界に再びち込む。修理と細やかな交情を深めていくようになった明世は、光岡修理と新たな自由を求めて旅立とうと決心するが、世は勤皇派と佐幕派抗争の時代。修理は藩内の政争で帰らぬ人となり、明世は狂気と孤独の淵(ふち)をさ迷う。髪を振り乱し、悶(もだ)え苦しみながら、男の画を描き上げることによって苦境を乗り越える。そして、「江戸に出ようと思います、そこで絵を学び、ひとりの生き方を学んで、残りの一生を絵とともに生きるつもりです。」、 ようやく独り立ちの先が見えてきた息子林一と別れて明世は江戸へ旅立つ。
 心の自由を求め南画一筋に生きようとする女の半生。魂をゆさぶる女の強さ、人生への愛おしさを感動的に描いた乙川優三郎の長編時代小説。直木賞受賞第一作。

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(C)WaShimo
『世界の中心で、愛を叫ぶ』

 片山恭一・著
 小学館/2003年4月20日第九版発行/定価\1400


聡明でけなげな少女アキ。朔太郎がはじめてアキと同じクラスになったのは、中学二年のときです。中学から高校へ。落ち葉の匂いのするファーストキス。明るい陽光に溢れた青春のまっただ中の朔太郎とアキ。しかし、オーストラリアへの修学旅行を目前に、アキは不治の病を発病します。「喪失感」から始まる魂の彷徨(ほうこう)の物語。使い古された定型的なストーリ、特異な書名などとの書評がありますが、かまわずストレートに読みました。永遠と死、美、「あの世」の存在の有無、形と意識、死の意義などについて祖父と語り合う中から、朔太郎は「生と死」について考えます。これから恋愛をするであろう人。恋愛のまっただ中にある人。そして、まぶしい青春はとっくに過ぎ去った(であろう)人。それぞれの世代の人にそれぞれに読める透明感のある澄んだ純恋愛小説です。

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